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遅発性筋肉痛および閉鎖性軟部組織損傷に対する高圧酸素療法

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アブストラクト

背景

軟部組織損傷(不慣れな運動後の筋損傷を含む)はよくある症状でしばしば運動に伴い発生する。高圧酸素療法(HBOT)は100%酸素を1気圧以上の環境圧で治療目的に投与する。

目的

軟部組織損傷、遅発性筋肉痛(DOMS)などの治療を目的としたHBOTの有用性および有害性を評価する。

検索戦略

Cochrane Bone, Joint and Muscle Trauma Group Specialised Register (2010年2月まで)、 Cochrane Central Register of Controlled Trials(コクラン・ライブラリ、2010年、第1号)、 MEDLINE (1950年~2010年2月)、 EMBASE (1980年~2010年、第7週)、 CINAHL(1982年~2008年10月)、およびわれわれの高圧酸素療法の施設で作成された追加データベースと参照文献リストを検索した。関連性のある文献をハンドサーチし、またその分野の研究者に問い合わせを行った。

選択基準

HBOTを含めた場合の治療計画とHBOTを除外した場合の治療計画(偽治療の有無)について、閉鎖性軟部組織損傷(DOMSなど)への効果を比較するランダム化試験

データ収集と分析

4名の著者がそれぞれに研究の品質を評価し、データを抽出した。レビューに提供したデータのほとんどが試験報告書のグラフより抽出したものであった。

主な結果

試験参加者が219名である9件の小規模の試験を対象とした。2件の試験では、急性閉鎖性軟部組織損傷(それぞれ、足首捻挫および内側側副膝靭帯損傷)に対してHBOTの実治療と偽治療を比較した。その他7件の試験では、試験用に調整を行っていない志願者を対象に、慣れていない運動後のDOMSに対するHBOTの影響について調査した。

足首捻挫に関する試験の参加者32名全員が、日常生活を再開した。回復時間、機能的転帰、疼痛、または腫脹に関して2つの群で有意差は認められなかった。二次性急性傷害の試験で膝機能スコアについて2つの群で差は認められなかった。しかし、この試験ではITT解析の実施は不可能であった。

7件のDOMSに関する試験で得られたデータの統合から、HBOT をすぐに開始した試験では、HBOT群で48および72時間(48 時間[0~10:最も重篤な疼痛]時点の疼痛スコアの平均差:0.88、95% CI:0.09~1.67、P= 0.03)で有意で一定の強い疼痛が示された。長期間の疼痛スコアまたは腫脹/筋力の測定値について、2群間に差は認められかなった。

HBOTによる合併症を報告した試験はなかったが、殆どの試験では試験参加者の選定が厳密に行われていたことは明らかである。

著者の結論

足首捻挫または急性膝靭帯損傷、または実験的に誘発されたDOMSに対するHBOTの効果を確立するために、ランダム化比較試験で試験した比較では十分なエビデンスは得られなかったHBOTによりDOMSの疼痛を一時的に増大させる可能性があるエビデンスがいくつか得られた。これらの傷害に対して今後HBOTを使用するためには、ランダム化比較試験を慎重に実施し有効性を示すことが先決である。

一般語訳

遅発性筋肉痛および閉鎖性軟部組織損傷に対する高圧酸素療法

軟部組織損傷はよくある症状である。高圧酸素療法(HBOT)は、特別に設計された部屋で高純度の酸素を吸い込む療法である。回復を早める試みとして、傷害部位への酸素の供給を増加させる目的でHBOTが使用されることがある。レビューでは合計で試験参加者219名となる9件の小規模試験を対象とした。2件の試験では、足首捻挫および膝関節捻挫への効果をそれぞれ、HBOTの実治療と偽治療で比較した。いずれの試験でも、これらの損傷が認められた患者でのHBOTの有用性について確認する十分なエビデンスが得られていない。その他7件の試験では、慣れていない運動後に生じた筋肉の損傷に対するHBOTの効果を調査した。慣れていない運動後の筋肉の損傷ではHBOTが有用であるというエビデンスは得られていないが、HBOTを施行された患者では疼痛度が若干高いというエビデンスもある。現在利用できる他のさまざまなインターベンションを考慮すると、HBOTについて更に研究することは最優先課題ではない。